3つの箱
2021年12月10日
日本の税制の特徴
- 総合課税と分離課税の組み合わせ
- 「全部合計して課税する」総合課税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる(累進課税)
- 「一部だけ切り離して課税する」分離課税は、所得の多さに関わらず定率で課税される
給与としてもらう所得は「給与所得」とされ、その他の所得と合算してからまとめて税額が計算されます。 これは総合課税と呼ばれます。それとは別にそれぞれの所得を計算し、税金が徴収される分離課税という方式もあります。
分離課税はさらに2種類に別けられます。 ひとつは金融機関が投資家に払い出す前に税金を差し引いてしまい(源泉徴収)、基本的にはそれで課税関係が終わる源泉分離課税です。
もうひとつは利益の一部を源泉徴収したりしなかったりするけれども、年に一度の確定申告で同じ種類の所得を合算し、まとめて税金を納める申告分離課税です。
つまり日本の税制には、「大きな箱に入れてまとめて税金がかけられる総合課税」と、「同じ種類の所得を中ぐらいの箱に入れて年に一度税金を支払う申告分離」、さらに「取引ごとに小さな箱に入れられてその都度課税される源泉分離」の3種類があります。
税金の取られ方は3種類
課税の種類 | タイミング | |
総合課税 | 総合課税は大きな箱 | 確定申告(翌年3月) |
分離課税 | 申告分離は中ぐらいの箱 | 確定申告(翌年3月) |
源泉分離は小さな箱 | そこで完結。ただし確定申告で還付もある。 |
それぞれの方式に属する所得の種類を表にまとめると以下のようになります。
所得の種類と課税方式
課税方式 | 所得の種類 | 計算方法 | |
総合課税 | 給与所得 | 給与所得控除額を控除 | |
事業所得 | 必要経費を控除 | ||
不動産所得 | 必要経費を控除 | ||
一時所得 | 「収入 - 必要経費 - 最大50万円」の半分 | ||
譲渡所得 | 「収入 - 必要経費 - 最大50万円」の半分 5年超えの長期保有の場合は半額が総合課税の対象 |
||
雑所得 | 収入 - 必要経費 | ||
分離課税 | 源泉分離 | 利子所得 | 経費による控除は認められない |
配当所得 | 購入のための借り入れ金利が経費として控除できる | ||
申告分離 | 山林所得 | 5分5乗方式 | |
退職所得 | (源泉徴収される前の金額 - 退職所得控除額) x 50% | (譲渡所得のうち) 土地建物 |
(譲渡価格) - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額 |
上場株式等の譲渡所得等 | (譲渡価格) - (取得費 + 委託手数料等) | ||
先物取引に係る雑所得等 | (差金等決済に係る利益) - (手数料等) |
総合課税の累進構造
総合課税は、それに属する所得が合計され、合計所得が大きくなるほど税率が高くなる累進税率が適用されます。
総合課税の構造
符号 | 項目 | 項目 | |
1 | 収入 | 売上に相当 | |
- | 必要経費 | 収入を得るのに使った費用 | |
= | 所得金額 | 儲け、利益に相当 | |
2 | - | 所得控除 | 所得から引いてくれるオマケ |
= | 課税所得 | これが高いと、次の税率が高い | |
3 | x | 税率 | 課税所得によって変わる累進税率 |
- | 税額控除 | めったにないオマケ | |
= | 税額 | あなたが観念して支払う税金の額 |
総合課税は3つの引き算と1つの掛け算で構成されています。 したがって、税引き後により多くの利益を残すには3つの引き算をうまく利用することが重要です。
特に「必要経費」と「所得控除」を利用すれば課税所得を圧縮できて税率が下がり、税額も少なくて済むことになります。
所得税と住民税
収入から必要経費と所得控除を引いて課税所得が決まりました。 こうして計算された課税所得に国の税金である所得税と、地方の税金である住民税が以下の速算表に基づいて課税されます。
速算表
課税所得 | 国税 | 地方税 | (A) | (B) | |
以上 | 以下 | 所得税 | 住民税 | 税率合計 | 速算用控除 |
1,000 | 1,949,000 | 5% | 10 | 15% | 0 |
1,950,000 | 3,299,000 | 10% | 10% | 20% | 97,500 |
3,300,000 | 6,949,000 | 20% | 10% | 30% | 427,500 |
6,950,000 | 8,999,000 | 23% | 10% | 33% | 636,000 |
9,000,000 | 17,999,000 | 33% | 10% | 43% | 1,536,000 |
18,000,000 | 39,999,000 | 40% | 10% | 50% | 2,796,000 |
40,000,000 | 45% | 10% | 55% | 4,796,000 |
税額は課税所得に税率を合計した(A)を掛け、速算のための控除(B)を引いて求めます。
(B)の控除は税金をオマケしてくれるという意味ではありません。 ある所得から突然税率を上げてしまうと支払う税額にギャップが生じてしまうので、その緩和を目的としたものです。 低い所得部分の低い税率の恩恵を失わぬように積み上げたものが累進課税の速算用控除となります。
こうして求められた狩りの税額から、本当に税金を戻してもらえる税額控除を引いてようやく納める税額が決定します。
税額 = 課税所得 x 税率(A) - 速算用控除(B)- 本当の税額控除
限界税率
今の課税所得が少しだけ増えたとき、そのうちのどれぐらいの割合を税金として納めなけれないけないかを限界税率と呼びます。
限界税率は上の速算表の通りです。 自分の限界税率を知ることは、投資において「総合課税」と「分離課税」のどちらを選択するかを考えるうえでとても重要になります。
所得の低い人が少額の利益を生む投資をする場合、総合ア税の方が有利になるケースがあります。 逆に投資以外に大きな所得がある人、投資そのもので数百万円以上の利益が出る場合は、総合課税によってひどい目にあることもあります。
投資商品や課税方式を選ぶ際は、
などを勘案することが重要です。
雑所得
投資家にとって雑所得は最悪。
雑所得になる投資はしない方が良い。
- 雑所得で利益を得ると、それ自体が課税所得を押し上げる
- 雑所得がマイナス(雑損)になっても、他の所得を減らすこと(損益通算)はできない
- 翌年以降への損失の繰り越しはできない
- 長期保有による特典はない
1000万円を1年間のドル定期預金にしたとします。 1年後には利息が50万円入ってきて、そのうち10万円(利息の約20%)が税金として取られます。 その間に円高が進んで、完本は900万円に目減りしました。
しかし、その元本の損失100万円に対しては、他に雑所得でもない限り救済はありません。 元本と利息を合わせると50万円の損失なのに、さらに税金を10万円取られることになります。
こんなことが起こるのは、利息は「利子所得」として20%の源泉課税で終了するのに対し、為替の変動による損益は「雑所得」に分類され、他の雑所得と数産されてから総合課税されるからです。