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ペアトレードへの道 第2回

ペアトレードの理屈を押さえる。参考書籍でさらっと解説されている部分を深堀しつつ考察を加える。

時系列データ分析(P149-150)の内容を読み解く。

共和分

単位根過程 $ X_t $の1回差分 $ \varDelta X_t = X_t - X _{t-i} $ が定常過程になるとき、 $ X_t $は1次和分過程と呼ばれ、$I(1)$ と表す。

原系列$x_t$が非定常過程であり、差分系列$ \varDelta x_t = x_t - x _{t-i} $が定常過程である時、過程は単位根過程(unit root process)と言われる。

単位根過程には別名がいくつか存在しており、定義により単位根過程は差分系列が定常となるので差分定常過程(difference staitionary process)と呼ばれることがある。 また、単位根過程は1次和分過程(integrated process)もしくは$I(1)$過程とも呼ばれる。

つまり、トレンドが確認できる株価データ(累積収益率)$X_t$ があり、その対数差分系列(収益率)には期待値と自己共分散が時間を通じて一定という特徴があったとすれば、 その株価データ$X_t$は単位根過程であり、$I(1)$とも表すよというだけ。

一般に2つの$I(1)$ 過程である $ X_t $と$ Y_t $の線形結合 $ \alpha X_t + \beta Y_t $ は$I(1)$ に従う。

原系列にはトレンドがあるものの対数差分系列には定常性の特徴がある2つの株価データ$X_t$と$Y_t$があったとする。 それぞれの株価の系列を定数倍して足し合わせた系列は、基となった系列の特徴を引き継ぎ、トレンドがあり対数差分を取ると定常となるのが普通。

しかし、$ \alpha X_t + \beta Y_t $ が定常過程$I(0)$になってしまう場合がある。

だが、$I(1)$ 過程である$X_t$と$Y_t$の組み合わせによっては、線形結合した系列そのものに定常性の特徴が現れる場合がある。

この時、2つの$ X_t $と$ Y_t $は、共和分(cointegration)の関係にあると言う。 そして、その係数$ (\alpha, \beta) $を共和分ベクトルと呼ぶ。

線形結合 $ \alpha X_t + \beta Y_t $が定常ならば、線形結合をうまく定数倍して定数項$- \alpha$を加えた$ Y_t - \beta X_t - \alpha $ という系列も定常になります。

線形結合 $ \alpha X_t + \beta Y_t $が定常性という性質を持つとき、$ \alpha $が1になるように定数倍する操作をしても定常性という性質を失うことは無い。 同様に、その系列から定数を引くという操作をしても定常性という性質を失うことは無い。

これは $ Y_t = \alpha + \beta X_t + \epsilon_t $という線形モデルを考えたときの$ \epsilon_t$の系列と同等です。

$ Y_t = \alpha + \beta X_t + \epsilon_t $を変形すると、$ \epsilon_t = Y_t - \beta X_t - \alpha $ となる。これは、上で定常性を持つことを確認した式と同じ。

つまり、$I(1)$同士の系列に線形モデルを当てはめて、その残差が$I(1)$にならなければ2つの系列は共和分の関係になるということになります。

単位根過程である$Y_t$と$X_t$に対し、$Y_t$を被説明変数、$X_t$を説明変数として、線形モデルを当てはめる。 その残差には単位根過程の性質が見られるのが普通であるが、残差が定常となる場合、$Y_t$と$X_t$は共和分関係にあることになる。

2つの系列が共和分関係にあるなら、線形結合$ \alpha X_t + \beta Y_t $の係数である共和分ベクトル$ (\alpha, \beta) $はいくらでも考えられることになるため、 通常の分析においては、係数を一意に定めるため$\alpha = 1$のような制約を設ける。

共和分関係の探し方

  1. 対象を単位根過程を条件に絞り込む
  2. $ Y_t = \alpha + \beta X_t + \epsilon_t $という線形モデルを当てはめる
  3. 残差系列が定常であるか確認する

上記の手順を踏むことで、共和分の関係にある株式のペアを探すことができる。$ Y_t $を被説明変数とすることで、$\alpha = 1$の制約を設けたことになる。

ペアトレード

2つの株式の間に共和分の関係を見いだせたとして、それをどのようにトレードに応用するのか。

もし2つの株式の累積収益率$X_t$と$Y_t$が共和分の関係にある、つまり線形結合$ Y_t + \beta X_t $が定常だとすると、 その線形結合の系列は定常なので平均回帰性という特質を持つ。

平均回帰性とは、時間経過とともに$ \vert Y_t + \beta X_t \vert $が非常に大きくなっても、更に時間が経過すれば、その値は平均である $ E(Y_t + \beta X_t)$という定数の近くに戻ってくるという性質。

共和分の関係にある2つの株式$X_t$と$Y_t$及び共和分ベクトルを見つけ出せたならば、日々$ \vert Y_t + \beta X_t \vert $の値を計算して、 大きく外れたところでポジションを取り、平均に回帰してきた段階でポジションを解消すれば利益を得られることになる。

共和分ベクトルは、ポジションの比率。$Y_t$が1に対して$X_t$をどのぐらい保有するか。 実践では、サヤを見るというよりも線形モデルを当てはめた時の残差の動きでエントリーとイグジットのタイミングを計ることになる。

このような投資戦略をペアトレードと呼ぶ。

共和分関係の判定は過去の一部のデータに基づいて行うため、 推定結果は真の構造を表していない可能性があり、また、推定した共和分関係が事実だったとしても、 未来において系列の性質が変化してしまい共和分関係が崩れることは十分考えられる。

共和分関係は絶対のものではない。それを根拠にしたペアトレードでは、閾値や経過時間を条件として取引を中断するロスカットルールを定めて適宜ポジションを解消するのが一般的である。

ペアトレードのポジション

注目するのは、$ Y_t = \alpha + \beta X_t + \epsilon_t $という線形モデルの残差項$\epsilon_t$である。 この残差は、共和分関係が崩れなければ今後も一定の範囲内で上下を繰り返すはずである。

ポジション構築のチャンスは4つのケースで発生する

$Y_t$が$X_t$に対して極端に高い時に残差はプラスに大きく振れる。 これは平均からの乖離であり、いずれ平均に回帰すると考え、 極端に高い$Y_t$をショートして、$X_t$をロングすることでポジションを構築する。

$X_t$が$Y_t$に対して極端に安い時も同様に残差はプラスに大きく振れる。 これは平均からの乖離であり、いずれ平均に回帰すると考え、 $Y_t$をショートして、極端に安い$X_t$をロングすることでポジションを構築する。

$X_t$が$Y_t$に対して極端に高い時に残差はマイナスに大きく振れる。 これは平均からの乖離であり、いずれ平均に回帰すると考え、 $Y_t$をロングして、極端に高い$X_t$をショートすることでポジションを構築する。

$Y_t$が$X_t$に対して極端に安い時も同様に残差はマイナスに大きく振れる。 これは平均からの乖離であり、いずれ平均に回帰すると考え、 極端に安い$Y_t$をロングして、$X_t$をショートすることでポジションを構築する。

ポジション解消のタイミング

いずれのケースにおいても、平均回帰がポジションを解消するタイミングとなる。

共和分の関係を前提に、平均から乖離した誤差項はいずれ平均に回帰するだろうと考えて仕掛けるのがこのペアトレード戦略である。 そのため、逆サイドへのブレを期待してポジションをホールドすることはない。 また、ポジション構築後に共和分の関係が失われた場合、前提が崩れことになるのでロスカットすることになる。

平均回帰を引き起こす値動きは、極端な値動きが叩かれるか、ペアが追いつくかの2パターンが考えられる。

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