玉操作について。
風姿花伝
一、秘する花を知ること。「秘すれば花なり。秘せずは花なるべからず」となり。この分け目を知ること、肝要の花なり。 そもそも一切の事、諸道芸において、その家々に秘事と申すは、秘するによりて大用あるがゆゑなり。 しかれば秘事といふことをあらはせば、させることにてもなきものなり。 これを、させることにてもなしといふ人は、いまだ秘事とふことの大用を知らぬがゆゑなり。
世阿弥の風姿花伝の言葉です。これに続くのが以下。
まづこの花の口伝におきても、ただ珍しきが花ぞと皆人知るならば、さては珍しきことあるべしと思ひ設けたらん見物衆の前にては、 たとひ珍しきことをするとも、見手の心珍しき感はあるべからず。
秘すること自体に重要性があって、秘事の内容を知ってしまえば、たわいのない事が多いものです。 一見たわいもない事の重要性を理解しているかも肝要の花と言えるでしょう。
相場日記を書きはじめましたが、チャートをどう読むかなどは秘する価値もありません。 そもそもトレードの損益に与える「上がる可能性が高い」とか「下がる可能性が高い」といった読みの影響はそれほど大きくないのです。
出典不明
相場は見込みの適不中如何にかかわらず、商いの方法だに宜しきを得ば、必ず利益を博するを得るべし。 それ思惑を立てて売買するに、あたることは十にニ、三、たがうことは十に七、八なり。
古いメモにあった言葉で出典は不明です。ここで言われるように、相場の損益は、見込みの正確さではなく、商いの方法によって決まります。 極短期で考えれば運、長期で考えれば商いの方法です。 ですから、秘するとすれば商いの方法ということになります。
商いの方法
では、商いの方法とは何か。 思うに、方法とはずばりコレというものがあるわけでは無く、様々なパーツによって構成されたモヤモヤとしたものではないでしょうか。 言葉では説明できない暗黙知の類です。言葉で説明できるのはパーツについてのみです。
各パーツに対する理解を深め、そららを自分にあった形で組み合わせることで完成するのが手法であり、商いの方法なのだと思います。
そして、商いの方法を構成するパーツの中で、間違いなく重要な位置を占めるのは玉操作、ポジションコントールの方法です。
玉操作
トレードにおいて、取りうるアクションは、
- 買う
- 売る
- 何もしない
の3つです。別の見方をすれば、
- ポジションを構築する(エントリー)
- ポジションを解消する(イグジット)
の2種となります。この構築と解消をどのように行うかが玉操作の入り口です。 さらに、この「どのように」を一括と分割に別けると4パターンあることになります。
一括 | 分割 | |
---|---|---|
エントリー | ||
イグジット |
- 一括エントリー、一括イグジット
- 一括エントリー、分割イグジット
- 分割エントリー、一括イグジット
- 分割エントリー、分割イグジット
どれが良いというのはありませんが、うまい人ほど分割を選ぶようです。自分の思惑が外れることが分かっているからでしょう。
分割の最大の利点は心理的なところにあります。これは言葉で言って分かるものではなく、経験して実感すればおのずと理解できるはずです。
ツナギ
「秘すれば花」ということで、玉操作に関して具体的な話はしませんでしたので、ひとつ面白い話を。
1000円で株を買って、後に1200円の値が付いた時に持っている株を売れば200円の儲けとなります。 最も一般的な売買で、これで1つのトレードが完結します。
アクション | 買い | 売り | トータル |
---|---|---|---|
1000円で新規買い | 1 | 0 | 1 |
1200円で決済売り | 0 | 1 | 0 |
世の中には変わった売買をする人がいて、
アクション | 買い | 売り | トータル |
---|---|---|---|
1000円で新規買い | 1 | 0 | 1 |
1200円で新規売り | 0 | 1 | 0 |
こんなことをする人もいるのです。1200円が付いた時に「決済売り」ではなく「新規で売る」のです。なぜこんなことをするのでしょうか。 決まった理由があるわけではないのですが、理由としてして挙げられるものの1つにコストダウンがあります。
例えば、1200円だった株価が1000円にまた戻ったなら、その時に売り玉を外すのです。 1200円で利確をした場合、すでにポジションを持っていませんので、この下げの影響は受けません。利益200円のままです。
一方、2つの目のケースでは、買い玉はプラスマイナスゼロ、売り玉は200円の利益でトータル200円の利益です。 どちらも同じ200円の利益なのですが、根本の発想が異なります。
200円の利益を得たのではなく、200円のコストダウンに成功したと考えるのです。このような売買をもし5回行うことができたら、 株の取得コストはゼロ円となり株価がそのまま利益に、その数を更に増やしていくとコストはマイナスの域に入ります。
あくまで考え方の問題で、数学的なメリットはありません。ただ、聞く人が聞くと非常に奥深いものに感じられるはずです。
おまけ
伝説的に有名なイギリスのロスチャイルド家の稼業?といわれるサヤすべり取り(ローリング)は主として銅(イギリスには金の先物取引は 1982年4月に先物取引所がはじまるまで行われなかった。LMEの主体は銅である)のサヤすべり取りであり、その長年の蓄積のため、ロスチャイルド家の 手持ちの銅地金(現物)のコストは天文学的マイナスの原価になっているといわれる。