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ボラティリティ


2021年12月1日

ボラティリティ

原資産価格が変動する大きさは統計学の手法によって計算され、ファイナンスの世界ではボラティリティ(volatility)と呼ばれている。

ボラティリティは「年率」で表示されるのが一般的である。 ボラティリティの重要な特性は、時間の平方根に比例している点で、1年よりも短い期間のボラティリティは年次ボラティリティを立会日数の平方根で割ることで求めることができる。

正確なボラティリティを求めるには対数計算が必要だが、1日のボラティリティの概算は年次ボラティリティを16($= \sqrt{256}$)で割ればよい。

ボラティリティは、それを発表する取引所などによって計算方法が異なるので、実務ではトレーダー自らが計算することになる。

オプションは原資産からの派生商品なので、原資産価格の変動の影響は免れない。 したがって、ボラティリティは「オプション価格の暴れ具合」を示すものでもあると言える。

リスクと不確実性

ボラティリティは、将来起こりえる「リスク」と「不確実性」を示す指標でもある。 リスクと不確実性は共通する部分もあるが異なる概念である。

リスクと不確実性

事象 発生確率
リスク 分かっている 分かっている
不確実性 分かっている 分かっていない

車を運転していれば事故を起こすことはある。そして、どのような事故がどのぐらいの確率で発生するかが分かっている。 したがって、自動車事故は「リスク」であると言える。

9.11では飛行機が高層ビルに突っ込んだ。物理的には飛行機がビルにぶつかる可能性はある。しかし、滅多に起こることではないので、確率の計算は無意味だ。こちらは想定できるものでもなく「不確実性」だと言える。

これまでいくつもの金融危機が発生したが、それらは1つとして同じものはなく、その性質も異なるものであった。 金融危機はリスクでありながらも不確実性の面も持っている。

歴史を見ると、想定内であろうと想定外であろうと相場が大きく動いた時は、ボラティリティが急上昇している。 つまり、ボラティリティはリスクと不確実性を表し、マーケットの不安を代弁している指標と言えるだろう。

ボラティリティには種類がある

一口にボラティリティといっても、それが意味するものには様々なものがある。

  • Historical Volatility(HV)
  • Implied Volatility(IV)
  • Realized Volatility
  • Future Volatility
  • Forward Volatility
  • トレーダーが心の底から知りたいと願っているのは「Future Volatility」である。 将来の株価が分かれば確実に利益を上げられるのと同様に、将来のボラティリティが分かればオプショントレードでも確実に利益を上げられるからだ。 しかし、これは未来を知ることに等しいので不可能だと言える。

    そこで、トレーダーは過去のボラティリティの傾向から未来を予測しようと試みる。 オプショントレーダーは株価の予測よりもボラティリティの予測の方が容易だと考えているので、ボラティリティに焦点を合わせるのだ。 HVは一定期間の原資産価格の変動から統計学的手法により計算されるものである。言わば原資産の過去の実績だ。

    ボラティリティ自体に高いも低いもない。そういった判断が成り立つのは何かしらの基準を設けたときである。 過去のボラティリティは「現在のボラティリティ」と比較検討する対象の1つとなる。

    では、「現在のボラティリティ」とは何なのか。 ボラティリティは変動を表現するものであり、瞬間を切り取れば変動はゼロとなる。 つまり、ボラティリティという概念は「期間」を対象にしたものだと言える。 したがって、現在という表現も今この瞬間だけを言うではなく、現在から満期までの期間のボラティリティを意味している。

    現在から満期までの期間、これは言うまでもなく未来の話だ。つまり、分からない。 それでも、市場参加者が「未来のボラティリティをどのように考えているか」は分かる。

    市場で取引されているオプションの価格から逆算して、マーケットが想定しているボラティリティを把握するのだ。 これが「インプライド・ボラティリティ」で、imlpyには「暗に示す」といった意味がある。 IVに科学的な根拠は無く、市場参加者が相場をどう見ているか、その総意とも言えるものである。

    HV

    過去のボラティリティ(HV)は、対数差分系列の標準偏差を年率に換算することで求まる。

    HVは1つの値ではなく時系列データの形を取り、また期間設定により値も変わる。 イメージとしては移動平均線が近いかもしれない。 詳しくは下記の記事を参照。

    過去のボラティリティは将来のボラティリティを予測することに使用される。 丁度、過去の値動きから未来の値動きを予想するようなものである。

    なぜ将来のボラティリティが重要かと言うと、それがオプション価格と直結するからである。 将来のボラティリティさえ分かれば、オプションの適正価格は計算ができるのだ。

    また、過去のボラティリティは現在のボラティリティがどういった水準にあるのかを把握するためにも使用される。 現在のボラティリティが過去と比べて高いものであったとしても、そこからボラティリティが低下して過去の平均的な水準に収束していくとは限らない。高いボラティリティが更に高くなることもあるのだ。

    将来のボラティリティは誰にも分からない。だから、そこから様々なドラマが生まれることになる。

    IV

    将来のボラティリティを予測し、それを他の5つのパラメーターと共にモデルに入力することで、オプション価格を計算できる。

    (入力)

  • 原資産価格
  • 権利行使価格
  • IV
  • 残存日数
  • 金利
  • 配当
  • (出力)➡ オプション価格

    それでは逆に、現在のオプション価格と他の5つのパラメーターから、ボラティリティを求めることもできるはずだ。 このようにして得られるボラティリティをIVと呼ぶ。

    直接的な表現で「将来のボラティリティは〇〇%となるだろう」と言っているのではなく、現在のオプション価格を通して「暗に示す(impliy)」ことからの由来である。

    Pythonで

    BS式でプレミアムを計算するように、IVを解析的に表現することはできない。 手計算するには、プレミアムが市場価格と一致するようなボラティリティを手探りで入力していくしかない。

    IVの計算はプログラムを用いて計算するのが一般的である。独自にコーディングすることもできるが、pythonであれば、「py_volib」や「MibianLib」といったライブラリを利用することができる。

    from py_vollib.black_scholes.implied_volatility import implied_volatility as iv
    
    iv_ = iv(price=call_price,
             S=underlying_asset_price,
             K=strike_price,
             t=days_to_expiry / 365,
             r=interest_rate,
             flag='c')
    

    上の例では、①オプションの取引価格、②原資産価格、③権利行使価格、④残存日数(年換算)、⑤金利をパラメーターとして渡し、IVを計算している。

    この中でやっかいなのは「④残存日数(年換算)」である。 満期までの時間になるわけだが、営業日だけをカウントするのか、市場の閉まっている土日祝も含めるのか、場中の時間の進行も考慮に入れるのかなどで違いが現れる。残存日数はIVの計算結果に大きな影響を与えるので軽視はできない。

    証券会社などが発表しているIVはその計算方法やパラメーターなどがはっきりしないことも多いため、トレーダーが自らのパラメーター設定で計算することが望ましい。

    代表IV

    オプションは、限月や権利行使価格、コールやプットの違いで、原資産が同じでも無数に分岐する金融商品と言える。 その1つ1つが独立した銘柄であり、IVもそれぞれ異なる。

    そこで、IVの全体的な傾向をつかむために代表IVが用いられることがある。「VIX」などもその一種である。

    代表IVの算出方法は様々で、取引の活発な期近ATM周辺のIVの平均を取ったり、期先のIVも考慮に入れられることもある。

    BSモデルとボラティリティ

    オプション価格の決定に大きな影響を与えるのがボラティリティである。

    オプション価格 = 本質的価値 + 時間的価値 + ボラティリティ価値

    BSモデルは「ボラティリティは満期までの期間において不変である」という条件が課されているのだが、 実際の相場を見れば、この前提条件に無理があることは明らかである。

    from py_vollib.black_scholes import black_scholes as bs
    
    call_price = bs(S=underlying_asset_price,
                    K=strike_price,
                    sigma=VOLATILITY,
                    t=days_to_expiry / 365,
                    r=interest_rate,
                    flag='c')
    

    上記のコードはBSモデルを使ってコールの理論価格を求めるものである。 パラメーターsigmaは定数となっており、道中のボラティリティの変動は考慮されていないことが分かる。

    BSモデルを使ってオプションの理論価格を計算する際、唯一の予測値としてインプットされるものがボラティリティである。

    前提と現実とのギャップ

    様々なオプション価格モデルは、原資産が何らかのモデルに従うことを仮定する。 BS式が仮定するモデルは、現在から将来までの連続複利表示されたリターンが正規分布に従うという、幾何ブラウン運動である。

    「ある確率変数が対数正規分布に従う」とは「確率変数の対数をとったものが正規分布に従う」ということである。

    しかし、この仮定は正しくないことが広く知られている。

    現実世界の株価リターンがとる確率分布は「歪度(Skew)」や「尖度(Kurtosis)」といったパラメーターを持つ。

    その結果、権利行使価格の低いオプションは計算値より高く、権利行使価格の高いオプションは計算値より安く取引されることが多い。

    これは、オプショントレーダーが対数正規分布を修正した確率分布を想定してプレミアムを計算していることに他ならない。

    歪みのパラメーター

    IVを権利行使価格ごとにプロットすると、対数正規分布に従うならフラットな直線となるはずである。 しかし、現実ではそうならない。

    対数正規分布を基準とするなら歪んでいることになる。 歪み具合を表すパラメーターには「歪度(Skew)」と「尖度(Kurtosis)」がある。

    スキュー(歪度)

    スキュー(Skew)とは、分布の非対称性を表すパラメーターのことで、統計学の世界での「3次のモーメント」とのことを言う。 n個のデータのスキューは、

    $$ Skew = \frac{1}{n}(\frac{\textstyle\sum_{i=1}^n(X_i - \bar{X})^3}{\sigma ^3}) $$

    ただし、

    $ X_i(i=1 \sim n) : n個のデータ $

    $ \bar{X} = \frac{1}{n} \displaystyle\sum_{i=1}^n X_i : n個のデータの平均 $

    $ \sigma = \sqrt{\frac{1}{n} \displaystyle\sum_{i=1}^n (X_i - \bar{X})^2 }: n個のデータの標準偏差 $

    と表される。同じ平均と標準偏差を持つ確率分布もスキューにより左右に歪む。 負のスキューは平均から左側に尾を引いた分布を表し、正のスキューは平均から右側に尾を引いた分布を表す。

    カートシス(尖度)

    カートシス(Kurtosis)とは、確率分布の裾の太さを表すパラメーターで、統計学の世界での「4次のモーメント」とのことを言う。 n個のデータのカートシスは、

    $$ Kurtosis = \frac{1}{n} (\frac{\textstyle\sum_{i=1}^n(X_i - \bar{X})^4}{\sigma ^4} ) - 3 $$

    と表される。3が引かれているのは正規分布のカートシスが3だからである。したがって、この値が正であれば、正規分布より裾の太い分布(Fat Tail)であることを意味する。

    ボラティリティの歪み

    ボラティリティの歪みは4つある。

  • HVとIVとの差
  • マネーネスの違いによる不正規分布
  • コールとプットとの差
  • 満期の違いによる差
  • これらの差を利益に変えようというのが「ボラティリティ戦略」である。

    HVとIVとの差

    HVとIVの間に差がある。 この差はオプション価格に反映されることになり、オプション価格の割高や割安の現象を生じさせる。

  • HV > IV : 現在のオプション価格は割安
  • HV < IV : 現在のオプション価格は割高
  • HVは一定の範囲内での上下を繰り返す。平均値を挟んだ上下運動となるので、極端なIVの値もいずれ平均へ回帰することになる。

    これを踏まえれば、割安なオプションは買い、割高なオプションは売りの原則が生まれる。

    IVはHVに比して、概ね高い水準で推移する。 これは、マーケットが実際の原資産の価格変動より大きな価格変動を見込んでいることを意味する。

    売りと買いを比較すれば、売りのほうが有利であることになる。 特にプットにおいては保険的な意味合いでの需要が高いので、その傾向が強い。

    マネーネスの違いによる不正規分布

    ほとんどの株の対数リターンは「左側に太い裾を持つ確率分布」をとることが知られている。

  • 負のスキュー
  • 正のカートシス
  • つまり、株価は大きく下落しやすいという特徴を持つ。 したがって、連続複利表示リターンを正規分布と仮定したモデルでは、権利行使価格の低いプットを過小評価してしまうことになる。

    この問題には権利行使価格によって使用するボラティリティを変化させることで対応できる。 具体的には、OTMのプットの計算にはATMの計算で用いるボラティリティよりも高いボラティリティを使用するのである。

    プットコールパリティの関係を成り立たせるために、OTMプットを高いボラティリティで計算したのならば、権利行使価格を同じにするITMのコールも同様のボラティリティで計算しなければならない。

    ストライク・スキュー

    同一満期、異なる権利行使価格間での歪みであるため「バーチカル・スキュー(Vertical Skews)」) とも呼ばれる。 マネーネスの違いによって生じる歪みである。 これは更に2つのタイプに別けられる。

    Forward Skews or Positive Skews

    低い権利行使価格ではIVが低く、高い権利行使価格ではIVが高くなっている状態。 この場合、割高になっているOTMのコールをショートするなどが考えられる。

    Reverse Skews or Negative Skews

    低い権利行使価格ではIVが高く、高い権利行使価格ではIVが低くなっている状態。 このタイプのスキューがよく観察される歪みとなる。割高になっているOTMのプットをショートするなどが考えられる。

    ボラティリティ・スマイル

    典型的な株は権利行使価格の低いオプションほど高いIVを持ち、権利行使価格の高いオプションほど低いIVを示す。 ほとんどの株では更に権利行使価格が上がるとIVは再び上昇に転じる。

    その結果、IVを権利行使価格ごとにプロットすると「ひきつったスマイル」の形状をとる。 これを、ボラティリティ・スマイル(Volatility Smile)」や、ボラティリティ・スマーク(Volatility Smirk)」などと呼ぶ。

    BS式との関係

    BS式よって求められたオプション価格は、一般的に以下のように言われている。

  • DITM  : 割安
  • DOTM : 割安
  • ATM   : 割高
  • また、OTMとITMについては、 「尖度(Kurtosis)が急尖的」で「Fat Tail」を持つ分布となる時はアンダープラスとなり、 「尖度(Kurtosis)が緩尖的」で「Fat Tail」を持たない分布となる時はオーバープライスとなる。

    コールとプットとの差

    プットはコールに対しボラティリティが高く、オプション価格が高い傾向がある。

    この歪みは、プットを相場の下振れのリスク回避のためにヘッジに使おうとする需要が強いためと言われている。 投資家はクラッシュの起こる確率を実際よりも高めに設定してことが原因であるとされている。

    プットのボラティリティはコールに対し、権利行使価格に関わらず全体的に高めとなっており、この特性を狙った戦略が生まれてくる。

    満期の違いによる差

    オプショントレーダーは権利行使価格の違いだけでなく、満期の違いによっても異なるボラティリティを適用する。 それぞれの満期までに発生するイベントの違いや、ボラティリティのトレンドを加味するためである。

    「ホライゾンタル・スキュー(Horizontal Skews)」とも呼ばれ、同じ権利行使価格でも、満期が異なることで生まれるオプション価格の歪みである。 また、IVの満期に対する変化を「タイムストラクチャー(Time Structure)」と呼ぶ。

    異なる満期間で違いがない場合は「フラット(Flat)」と表現し、違い場合は以下のような表現がされる。

    Upward

    満期が近いものほどIVが低い状態。

    Downward

    満期が近いものほどIVが高い状態

    直近の変動の影響を受けやすいのは満期の近いオプションとなる。 そのため、株価が急落すると満期の近いオプションほどIVが上昇し、ダウンワードとなりやすい。

    逆に、直近の値動きが非常に乏しい場合、満期の短いオプションほどIVが低下し、アップワードとなりやすい。

    一般的に、期近(front month)のボラティリティは、期先(back month)よりも低いと言われている。 このことから「カレンダー・スプレッド」は、期近をショートし、期先をロングとする。

    Volatility Surface

    • 権利行使価格
    • 満期までの時間
    • IV

    の3次元のプロットを「ボラティリティ・サーフェイス」と呼ぶ。 オプション価格を計算する際の妥当なボラティリティを検討する際に使用される。

    また、原資産の異なるオプション間で「ボラティリティ・サーフェイス」を比較すれば、相対的な評価も可能となる。

    Brenner and Subrahmanyam

    $$ straddle = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \sigma S \sqrt{T} $$

    $$ \sqrt{\frac{2}{\pi}} \backsimeq 0.8$$

    $$ C + P = 0.8 \sigma S \sqrt{T} $$

    この公式を使うと、ATMのストラドルのコストから凡そのIVを計算できる。 満期までの時間がT=1/4(3か月)の100ストラドルに10ドルのプレミアムを支払った場合、

    $$ 10 \backsimeq 0.8 \times \sigma \times 100 \times \sqrt{\frac{1}{4}} $$

    となるので、

    $$ \sigma \backsimeq 0.25 $$

    ボラティリティは約25%と計算できる。

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